ニュースの「素」を作る仕事。
TBS報道局社会部で記者をしています。2018年7月から、約9か月間は司法担当として、司法記者クラブで裁判や検察が扱う事件、法務行政などをメインに取材していました。事件発生後の記者会見に行ったり、裁判を傍聴してメモしたり、そこで得た情報をもとに関係者を取材したり。さまざまな情報を集めて原稿を書き、ニュースの「素」を作る。
記者クラブは、情報収集の拠点。官公庁や政党、自治体、業界団体など、取材対象ごとにある感じです。当事者・関係者からの資料提供や会見の申し出を受けることもあります。自分がいた司法記者クラブは、テレビ局や新聞社など十数社が入っています。
膨大な情報の中に、疑問を持つ
2019年4月からは内勤担当として、事件や事故など日々発生するニュースの放送業務を行っています。 “情報の第一線”の報道局。「一次情報」と言われるあらゆる情報が次から次へと入ってきます。それらを原稿化、編集し放送しています。膨大な量の情報を扱う中で、自分が大事にしているのは、「なんでだろう?」「どういう事なんだろう?」と疑問を持つこと。社会部の前に番組のディレクター経験があったから、考える“癖”が付いているのもあると思います。その疑問が視聴者への分かり易さにも繋がりますし、また深堀りし原因などを探ることで、自分がやらなければ誰も知ることのなかった事件や事故の本質を視聴者に伝えることができる。使命感のようなところもあると思います。
そうした疑問から取材を重ねて放送したのが、『消えた留学生』の問題です。都内の大学に1年限定で入ってた留学生が、いつの間にか大量に所在不明となっているというニュース。2019年1月にTBS社会部がチームを組み、私もその一員として独自取材をして放送しました。その後6月頃までコンスタントに続報を放送してはいましたが、「どんな人が」「なぜ」の部分が見えてこず、疑問は消えないまま。内勤になり、取材に専念させてもらえることになったため、ネパールで元留学生の話を聞いたり、日本にいる留学生の現在の生活など、約1年間に及ぶ取材を経て、12月末に特集企画として放送することができました。
独自ニュースは苦労が報われる瞬間
2019年の5月ごろ、ある人物と知り合うことができ、その人物からある大物女優の薬物疑惑の情報がもたらされました。それが、11月に逮捕された人物だったんです。私が得た情報を警視庁担当と厚労省担当と共有し、取材を進めていきました。情報提供者ともこまめに連絡を取り合うなど関係を築き、とうとう、都内のイベントに参加するかもしれないという情報を入手。
チームで手分けをし、取材をしていた結果、自宅前で着飾ったその人物が振り返る様子を撮影することに成功しました。そして翌日、急転直下の逮捕となったんです。注目度の高いニュースな上にTBSだけの独自スクープだったこともあり、TBSのニュースサイトへのアクセス数もものすごく伸び、また、社内報奨もいただくことができました。実は、日々取材を積み重ねていっても、放送に至らないことも多々あるんです。そんな中で、ニュースとして出せたというのは、本当に苦労が報われた瞬間でした。
伝えることで、考えや行動が変わるきっかけに。
学生時代にボランティア活動をよくやっていました。内容は、発達障がいの子どもたちと遊びに行くというもので。子どもたちと電車に乗っていたとき、周囲の乗客たちから非難するような目で見られてしまった。電車好きな子どもが興奮して、はしゃいでしまったんです。自分としては「障がいがあるんだから仕方ないじゃないか」と思う。でも乗客たちは、その子に障がいがあることを知らない。もし見た目に分かりづらい障がいの存在が知られていたら。もし乗客たちが「この子たち発達障がいなのかも」と想像力を働かせることができたら。子どもたちに非難の視線が向けられることは、なかったのしれない。それで「伝えなくちゃ」と思ったんです。伝えることで、知ってもらうことで、人々の考えや行動が変わる。そのきっかけになればと、報道の仕事を目指しました。高校時代から見ていた『NEWS23』に携わりたいなと、この会社を受けました。
取材は、挨拶から。まずは、声をかけてみる。
取材対象者を口説き落とすのが上手な記者、情報を引き出すのが上手な記者、色んなタイプの記者がいます。自分は周りに「現場でこれだっていう何かを探してくるのが上手」だと言われます。意識してやっているのは、人に声をかける勇気を持つこと。そして、疑問をそのままにしないこと。応じてもらえることは少ないですが、取材で訪れた町で散歩している人に「こんにちは」と声をかけたり、少しでも疑問に感じたら「何してるんですか?」と声をかけたり。すると稀に、挨拶を支わした人から取材のきっかけや情報を得られることがあるんです。
東日本大震災が起きた直後、東北に行きました。『NEWS23』のディレクターをしていたころです。誰がどこで何に困っているのか情報が少ない状況でしたが「とりあえず行こう」と。岩手県の大槌町で、独り港でボロボロの野球ボールを壁に向かって投げている少年がいたんです。不思議に思って声をかけたら、地元高校の野球部員だと。家も野球の道具も津波に流された彼は「甲子園に行きたいけど、練習場所がないから投げている」と。それから家族や学校の許可を得て、練習風景や甲子園予選の様子など数回、『NEWS23』の特集で放送しました。
事件などでは話を聞く対象は明確ですが、災害などでは「この人に話を聞こう」と現地に行くことはありません。手がかりがないところから見つけるしかない。現場に行って、拾えるものを1つでも多く拾う。基本にあるのは、声をかけることだと思っています。
WORKS
SCHEDULE OF ONE DAY

司法クラブ
昼ニュースに向けて、司法クラブで原稿準備など。

中継
東京地検特捜部に逮捕起訴された被告が保釈されることになり、最新情報と現場の状況を中継。

取材
声を拾うべく、カメラマンと音声スタッフと取材。

編集
VTRを編集、編集の人と協力しながら。取材した時からいったん冷静になって、初見で分かるか考えて。